2026.05.18

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最新技術を結集させた新たな映像中継車と2Kマスターがついに稼働!担当者が語るリニューアルの舞台裏。

WOWOW 技術センター コンテンツ技術ユニット 斉藤圭亮
WOWOWエンタテインメント 技術事業本部 中継技術部 橋本優太
WOWOW 技術センター 設備プロダクトユニット 河村敦史
WOWOWエンタテインメント プロダクション推進本部 メディア事業部 渡邉吏祐
(写真左から)

最新技術を結集させた新たな映像中継車と2Kマスターがついに稼働!担当者が語るリニューアルの舞台裏。

このたび、新たな映像中継車が運用を開始。また2Kマスターも時を同じくして一新された。いずれもWOWOWのコンテンツをユーザーへ安全に届けるうえで欠かすことのできない存在である。新映像中継車・新2Kマスターに携わった担当者にリニューアルの舞台裏をうかがった。

作業環境、技術のクオリティー、安全面の課題をすべて網羅した待望の新中継車

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──このたび、新たな映像中継車「HDR-2」の稼働がスタートしましたね。

斉藤 待望の中継車リニューアルでした。中継車は屋外で使用することがほとんどですから雨風の影響を強く受け、なおかつ、全国へと飛び回りますので、本当によく頑張ってくれたなという気持ちです。

2605_features_outside_broadcasting_van_sub02_w810.jpg新しい映像中継車「HDR-2」。現行車両の大きさ、機能要件は落とすことなく更に快適な制作環境の実現を目指した。

──中継車の設計はフルオーダーメイドだと聞きます。実際にお2人も開発に携わられたのでしょうか。

橋本 はい。中継チームにはディレクターをはじめ、撮影監督、スイッチャーなど、経験豊富なスタッフがたくさんいます。関係する皆さんと機材の選定を含め、さまざまな意見を出しあって内容を詰めていきました。そうした中、最もこだわったのが制作ルームの拡大です。車の壁面に沿うようにモニターや卓の配置を横向きにしたことで、以前から比べると1.5倍のゆとりある空間となりました。2列目にはひな壇を設けてプロデューサー席を配置するなど、チームとしてより密な連携がとれるようになったとともに、スタジオ同等の居住性を実現させることができたと感じています。

斉藤 さらに付け加えるなら、制作環境を充実させることで技術的な部分のスペックが落ちることがないよう、両方を高い次元で両立させるということも常に念頭に置いていました。というのも、今の時代はポストプロダクション(編集)の技術が飛躍的に向上し、編集室での仕上げ工程を経たコンテンツがどんどんハイクオリティーになっている。ただ、生中継や生配信はポスプロを入れることができないため、現場における"生"の技術力がもっとも試されるんですね。WOWOWの中継チームはその要求に応えられる技量や経験を持っていますので、皆の力が最大限に発揮できる環境設計を目指しました。

2605_features_outside_broadcasting_van_sub03_w810.jpgWOWOW 技術センターコンテンツ技術ユニット 斉藤圭亮

橋本 最新機材の導入で、システムの堅牢性も増しましたよね。

斉藤 新車の設計において重視したポイントの一つがその点です。利便性や作業環境ばかりを追求していくと安全面が疎かになりかねないため、当然ながら、たとえどこかで障害が起きてもすぐに対応できるように、バックアップ面も一切の妥協をしないように注意しました。

──他の方からはどういったご意見が多かったのでしょうか?

斉藤 やはり映像のクオリティーの向上に関してですね。私たちは「色管理」と呼んでいるのですが、カメラから送られてきた映像の色味や質感を中継車の中で調整していくんです。今回は新たにそのための専用スペースを設けました。

橋本 これは今までの中継車にはなかった新しい設備で、全カメラのHDと4Kの映像を集中的に管理できる環境になり、収録素材のクオリティーがさらに向上しました。

いかにスタジオの環境に近づけていくかに注力

──車内の様子を拝見すると、以前に比べモニターの数も増えた印象がありますがどのような点が変わったのでしょうか?

斉藤 制作室の壁一面に最大200個の映像を映し出すことができるようになりました。以前のように皆で一つのモニターウォールを見るのではなく、卓に座る人それぞれが自分に最適なモニターレイアウトで映像を確認でき、そこが大きなメリットになっています。これは演出サイドからも特に要望が強かった点です。
WOWOWが手掛ける音楽ライブ中継では30台~50台のカメラが会場内に設置されるのですが、この中継車では最大で60台まで対応しています。これまでもシステム自体は対応できていたんです。でも、モニタリング環境には限界がありました。ですから、この点も新たな中継車の強みになったと言えますね。

2605_features_outside_broadcasting_van_sub04_w810.jpg最大5人横並びで座っての作業が可能に。

──なるほど。そのほか、車内にはどんな工夫を?

斉藤 制作室の静音化に取り組み、VE室との間にパーテーションを取り入れました。車内には機器ラックも一緒に設置しているため、どうしてもファンの音などが漏れてくる。その音をパーテーションで遮断することで制作ルームが個室状態になり、演出陣がモニターに集中できるつくりになっているんです。

橋本 技術的なシステム設計だけでなく、演出陣が最大限の力を発揮できる環境を整えることも、われわれシステムエンジニアの大切な役割の一つだと考えています。ですから、中継車という限られた空間の中であっても出来る限りスタジオに近い環境を目指しました。

──2026年2月に開催された音楽ライブの収録が初稼働だったそうですが、実際の使用感はいかがでしたか?

橋本 新しいシステムになって利便性を感じたのが、さまざまな設定をタブレット上で出来るようになったことです。操作が簡略化されたことで、その分、セッティングの時間も短縮され、クオリティー管理に時間を割ける。このプラス面は現場にいると強く感じます。

加えて、快適性の面でいうと、スイッチャーの卓が可動式になったのも良かったですね。自分好みの環境をつくれることがストレスをなくすことにもつながっているなと実感しました。

2605_features_outside_broadcasting_van_sub05_w810.jpgWOWOWエンタテインメント 技術事業本部 中継技術部 橋本優太

斉藤 今後の想いとしては、この新車から生み出されていくコンテンツで、多くの視聴者の心に響く瞬間を一つでも多くつくっていく。それを一番の目標にしています。

橋本 そうですね。われわれがしっかりとシステムを担保し、その日、その瞬間にしか撮れない画を演出陣が切り取って視聴者に届けていく。そうやって、時には生配信で世界中の人々が同時に興奮や感動を共有したり、中継を通していつまでも心に残るようなコンテンツをつくり出していけたらと思っています。

新たなマスターづくりで目指したのはIP化&ソフトウェア化と運用効率化

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──新しい映像中継車の導入とほぼ時を同じくして、2Kマスター設備も一新されました。まずは、この経緯から聞かせていただけますか?

河村 以前の2Kマスター設備は10年以上稼働していましたので、ひと言でいってしまえば、設備を一新するタイミングを迎えたことにあります。

──刷新するにあたって、どのようなテーマが設けられたのでしょうか?

河村 大きく分けて3つあり、一つはIP化です。これまでのSDIと呼ばれるアナログ時代から培われデジタルになっても使われ続けていた設計の考え方から、今回は新たにITの技術を使ってマスターを構築していくIP設計の放送システムへと移行することです。

2605_features_outside_broadcasting_van_sub07_w810.jpgWOWOW 技術センター設備プロダクトユニット 河村敦史

渡邉 これは次世代の放送基盤を見据えた設備になります。

河村 2つ目がソフトウェア化。これまでは大きなハードウェア、つまりは放送専用の機器で運用していましたが、今では技術の向上に伴い放送システムもソフトウェアに成り代わってきているので、そのソフトウェア化を用いて汎用機器に替え、いかにコンパクトに設計できるかを模索しました。そして3つ目が運用効率化。朝・夜間も含め24時間365日と常時監視する必要があり、より少ない人数でも従来と変わらない監視運用が効率的にできるようなシステム構築を目指しました。

──今回のリニューアルのプロジェクトはどのくらいの期間をかけて行なわれたのでしょうか?

河村 最初に私たちの要件をお伝えし、検討を重ねながら設計・調達・開発・テストと進めていったので、全体で3年ほど要しました。マスターは放送の「心臓部」と言われ、一度切り替えたら後戻りができません。また、切り替えをする時期も決まった上で動き出しているので、大きなトラブルなどの理由がない限り、そのゴールに間に合わせなければなりません。そうした、失敗が許されない状況でしたので、時間をかけて必要なテストを実施していきました。それに、今回は新しい技術であるIPを使って設計したこともあり、みんなが新しいことを覚えつつ、試行錯誤しながらの作業でしたので、より時間がかかったところがありますね。

渡邉 私はシステム設計が終わった後、開発工程から参加したのですが、その時点でいくつか残課題があり、ラウドネスコントローラーと呼ばれる音の調整を担当しました。自動的に小さい音を上げて、大きな音を抑える補正機能なのですが、機器刷新に伴いその効果がどれくらいあるのかを確認するため、数十件ものさまざまなジャンルの素材を検証し、ノイズが出ているようであれば修正していくという作業を何度も繰り返していました。

河村 視聴者の皆さまはテレビだけでなく、スマートフォンやタブレットなど多様な環境で視聴されます。 そのため、どのデバイスでも聞き取りやすいように音を調整する必要があるんですね。渡邉さんと担当メンバーには執念深く検証してもらいました。

渡邉 最近つくられたコンテンツは、音量が整えられているため調整の手間が少ない一方、古い映画などでは調整が大変でした。そのほかにも、いくつかのシステム調整や運用設計に携わらせていただきましたが、途中からの参加だったこともあり、うまく対応できなかった部分もありました。そうした中でも、マスターのメンバーそれぞれが意見を出し合うことで、課題をクリアすることができました。今回のリニューアルは本当に皆さんと力を合わせてつくっていった結果ですので、マスターのメンバーをはじめ、各部署でご協力いただいた皆さんには感謝しかありません。

省人化を図りながらも、安全面と効率化は向上

──先ほどのお話しにあった3つのテーマについて、もう少し詳しくご説明をいただければと思います。1つ目に挙げられたIP化というのは具体的にどのようなものなのでしょう?

河村 適切な表現になるかは分かりませんが、道路に例えてみると、これまでのSDIは片道の一方通行で、それが何十本もあるような状態でした。それがIPになると、車線の数が一気に増え、高速道路のように速くなり、なおかつ片道ではなくなることで、物理的にケーブルの本数が圧倒的に少なくて済むんです。シンプルに表現すると、専用の道から共通で使える道路網に乗り換えるというイメージでしょうか。これは2つ目のテーマにもつながることですが、放送システムをソフトウェア化してコンパクトにしたことで、以前と比べてラックの本数が6割も減り、大きなコストダウンになりました。

2605_features_outside_broadcasting_van_sub08_w810.jpgマスター室自体のスペースもコンパクトに

──設備をリニューアルされたことで、苦労した点などはありますか?

河村 今回のリニューアルでは、メーカーのシステムやソフトの標準の仕様・機能を極力そのまま活かすようにしたんです。カスタマイズすると、そのぶん検証項目が増えコストも増えます。それを避けるためだったのですが、どうしてもWOWOW独自の仕様に変更しなければいけない部分があり、その調整には苦心しました。あとは、やはり2Kマスター設備と接続している他設備とのテスト内容ですね。どのような状況の際に、最終的にどのような状態になっているとよいのかという観点で想定する必要があったので各システムの担当者とベンダー様の協力が不可欠でした。

2605_features_outside_broadcasting_van_sub09_w810.jpgWOWOWエンタテインメント プロダクション推進本部 メディア事業部 渡邉吏祐

──フルカスタマイズした中継車とは真逆ですね。

河村 ええ。中継車は作業スペースを広くすることを課題にされていましたが、われわれはいかに設備の設置スペースや監視スペースをコンパクトにするかを考えていましたから(笑)。

渡邉 マスタールームといえば、正面に大きなモニターがあり、そこに各映像信号を集約して表示しているイメージがあるかもしれません。しかし今回はそのスタイルを見直し、従来は一つの大型モニターに集めていた各映像信号を、複数のモニターに分散して表示することで、監視者が必要な情報をより近い距離で確認できるようになり、作業効率が向上しています。さらに、全体の構成も簡素化したことで監視スペースは旧設備の約半分になりました。

──それは大きな革新ですね。

河村 改めてマスターの役割について説明すると、マスターは完成した映像や番組などのコンテンツを、データの指示通りにシステムが自動的に動かし、問題なく放送されているかどうかを監視する場所なんですね。つまり、トラブルがなければ、基本的には人が何かしらの操作をすることがないんです。極論を言ってしまえば、トラブルさえ起きなければ無人でもいいかもしれません。とはいえ、問題が起きないように、また問題が起きた場合にそなえて、人間が監視しなければいけない。以前は、その監視の役割を4人で担っていたのですが、今回は先ほど話した3つ目の課題として、機能の効率化を図り、3人体制にしよう(省人化)という目的がありました。

渡邉 これまでは映像を常時監視していましたが、リニューアルしたマスターでは、番組の切り替わりなど重要なタイミングでの人的確認に重点を置く運用へと変更しました。切り替わりのタイミングを見落とさないようアナウンス機能を備え、システム異常時には正常な系統へ自動で切り替える仕組みや、ひと目で状況が把握できるアラーム監視システムなどを整えることで安全面と効率化を実現しています。

──最後に、今後の展望についてもお聞かせください。

河村 展望とは違うかもしれませんが、まずはやはりわれわれの役割として、お客さまにしっかりと安全にコンテンツを届けていくことが一番です。また、もう一つ挙げるならば、この新しい2Kマスターをより良く変えていきたいと思っています。私はまだ完成とは思っておらず、改善点は今後もたくさん出てくると思います。ゆくゆくは本当に無人にしていくことだって可能になるかもしれません。効率性と安全性は相反するところもありますが、高いレベルで両立を可能にする道を模索し続けていきたいですね。

渡邉 個人的な展望としては、今回は途中からプロジェクトに参加したので、一からシステム設計に携わってみたいという想いがあります。
現状の課題としては、アラーム検知が多いため設定の見直しなどを進めながら、将来的には、AI活用も検討しています。というのも、これだけシステムの数が多いと仕様書も相当な数になりますし、過去の不具合対応記録や放送日誌といった運用データも蓄積しているので、今後何かしらの問題が起きたときに、AIですぐに回答を導き出せるようにしていけたらと思っています。

河村 そこは今後のさらなる効率化につながる部分ですね。また、次のシステムをつくる際の大きなヒントにもなるでしょうね。今後はWOWOWの技術だけと言わずWOWOWグループ全体、そして関わる方々すべての組織と人でお客さまに愛され選び続けられるよう、より良いサービス提供を継続していこうと思います。

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【プロフィール】
斉藤圭亮(WOWOW 技術センターコンテンツ技術ユニット)
2014年WOWOWにキャリア入社。技術プロダクションを経て、入社後は主に中継現場で映像の品質管理を行なうエンジニアを担当。現在はスタジオや中継の設備等の業務を行なっている。

橋本優太(WOWOWエンタテインメント 技術事業本部 中継技術部)
2014年WOWOWエンタテインメント入社。テニスのグランドスラムの中継業務などに従事。スイッチャーやカメラマンを経験する中で、2017年より志願してビデオエンジニアへ。現在もVEとして多くの中継に参加。

河村敦史(WOWOW 技術センター設備プロダクトユニット)
1991年WOWOW開局と同じ年にWOWOW新卒入社。技術で採用されたのち、長らくマスターの設備管理と運用を担当。編成部門への異動を経て、現在は再びマスターの設備管理と運用に携わっている。

渡邉吏祐(WOWOWエンタテインメント プロダクション推進本部 メディア事業部)
2023年WOWOWエンタテインメントにキャリア入社。前職では、CS放送のマスターを約18年担当し、運用を中心に設備更新にも関わる中で放送システムへの関心を深め、放送技術・システム領域により深く関わるため現職へ。

取材・文/倉田モトキ 撮影/中川容邦