2024.02.29

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WOWOWのライブ中継は何がすごい? "職人"スイッチャーとカメラマンが語る準備の大切さ(前編)

WOWOWエンタテインメント株式会社 技術事業本部 中継技術部
エグゼクティブ・ディレクター 播島暁
副部長 藤本誠司

WOWOWのライブ中継は何がすごい?

視聴者のみならず、業界内やアーティストからも厚い信頼が寄せられているWOWOWのライブ中継。数あるモニターの中からその瞬間に最適な映像を選択し視聴者に届けるスイッチャーとして活躍する播島暁、最高のパフォーマンスを映像に収めるカメラマンの藤本誠司がWOWOWエンタテインメントの技術の高さについて語ってくれた(前後編の前編)。

カメラマン、スイッチャー、撮影監督......意外と知らない技術のお仕事

――これまでの経歴、携わってきたお仕事について教えてください。

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播島 TVを見ていて単純に「楽しそうだな」と思い、撮る側に回ってみたいということでTV業界に入ったのがきっかけです。最初に入社したのがTV中継技術の会社で、そこでカメラを扱うようになりました。その後、スイッチャーに興味を持ち、現場で担当出来るようになり、WOWOWで仕事をするようになってからディレクター業務もやるようになり、今は演出の仕事の方が多いですね。

最初の会社は大阪で、カメラマンとして競馬やサッカーなどスポーツ中継を担当することが多かったです。10年ほどカメラマンをする中で、スイッチャーの仕事にも興味を持つようになって、30歳の頃に3~4台のカメラを使ったイベントや式典の中継業務を行なう機会が多くあり、そこでスイッチャーを多く担当させていただくようになりました。

カメラマンの時代はスポーツ中継が多かったんですが、スイッチャー業務をやるようになってからはスポーツ中継業務が減り、ライブ収録やステージの仕事が増えましたね。

ディレクター業務は主に、お芝居やミュージカルの収録、配信をやっています。カット割りや「このシーンはこういう画が欲しい」といったシーンごとの見せ場や、撮影イメージを膨らませ、プランを立て、下見をして本番の撮影に臨み、編集も行なって完パケまで担当するという流れです。

WOWOWで仕事をするようになったきっかけは、カメラマンとしてライブの仕事をやりたいと思ったんですが、大阪ではあまりライブやステージの仕事がなかったので、東京の技術会社に中途採用で入社したことですね。当時はWOWOWも技術部門がまだまだ駆け出しという感じで、僕がWOWOWの撮影の手伝いに行く機会があり、それ以降、よく仕事をするようになりました。

――藤本さんは1997年の新卒採用でWOWOWに入社されたとのことですが、WOWOWを選んだ理由と、これまで担当されてきた業務について教えてください。

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藤本 もともと音声を使って表現する仕事がやりたくて、TV業界を志望しました。幸運なことに最初から現場に配属されまして、研修を受ける中で「カメラのほうが面白そうだな」と思いました。途中、送出技術部に異動になった時期もありましたが、その期間も含めて基本的には入社してずっとカメラマンとして中継収録の現場で働いています。

昔はWOWOWもスポーツ中継が多かったですし、あとはイベントやちょっとしたロケ取材などもありましたが、徐々に音楽ライブの仕事が増えてきて、最近は7~8割方が音楽ライブの撮影ですね。

僕は播島さんと違って、スイッチャー業務やディレクター業務をやることはほぼなくて、撮影監督として撮影のプランを立てたりすることはありますが、基本的にカメラマンとして撮影に従事しています。

現場に入るのは当日。それ以前のプラン&準備がすべてを決める!

――音楽ライブの生中継を行なう場合の準備のプロセスなどについて教えてください。

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藤本 規模にもよりますが、通常、一つのコンサートを撮るとなると2~3カ月前に決まって、収録日以外で同公演が開催される場合は事前に公演下見に行き、プロデューサーやディレクター、カメラマン、スイッチャーが集まって撮影プランを立てたり、技術スタッフの選別などを行ないます。その後、スタッフ全体で動き始めるのが1カ月くらい前ですね。具体的にどういう機材を使うかといった細かい部分を詰めていきます。

現場のスタッフが100人くらいだとすると、当日だけ現場に来て、収録に従事するのが約90人で、それ以外の人たちが事前のプランニングなどに関わることになります。会社の倉庫で機材の準備やチェックをするのが現場に入る1日前。東京ドームくらいの規模であれば前日に現場に入りセッティングを行ないますが、武道館やアリーナ、ホールだと現場に入るのは当日のことが多いです。朝から約6時間くらいかけて準備してリハーサルをやり、本番が行なわれて撤収するという流れです。

――アーティストごとの収録のプランなどはどのように決めていくのでしょうか? アーティストと直接話し合われることもあるんですか?

藤本 アーティストさんによりますけど、直接お会いして話し合うということは基本的にはあまりないですね。

播島 何度か収録をさせていただいたことのあるアーティストの方の場合は、参加したことのあるスタッフがコアメンバーに入ってプランニングからやらせていただくことが多いですが、基本的には藤本くんをはじめ、撮影監督やプロデューサーが方向性やプランニングを詰めていくという感じですね。

――WOWOWエンタテインメントが担当するライブ生中継は、カメラの台数が多いとお聞きしました。

藤本 何をもって「多い」と言うのかというのもあり一概には言えませんし、実際パッケージをつくっている他のアーティストさんの場合、もっと多いこともあります。ざっくりですが、アリーナクラスの規模で25~30台、ホールだと20台くらい、ドーム規模になると35~40台という感じですかね。

40台のカメラから送られてくる映像からどうやって瞬時に"ベスト"を選択する?

――台数が多ければ多いほど、さまざまな角度・距離からの映像が収められて良いというものなのでしょうか?

藤本 それは撮影監督とディレクターの間で意見が分かれるところかもしれませんが、多けりゃ良いというものではないですね。多いと役割を決めてしまうところもあるので。

撮影監督の立場で言うと、できるだけ撮り逃しがないようにプランニングするのが安心ですが、そうすると同じような画(え)が並んでしまうということもあって、あえて役割を散らす監督もいます。10台だろうが100台だろうが、その瞬間に使われる画は1枚しかないので、それを選択する上で多い方がいいかどうかは監督によりますね。

播島 これがたとえば10人組のアイドルグループとなると、ひとりずつの画をキープすると少なくとも10台必要ですし、バンドとは台数の考え方が違ってくるんです。そこから(各メンバーの)2枚目、3枚目の画が欲しいとなると10台、20台と簡単に増えていきますからね。

――スイッチャーとして瞬時に多くのカメラから最適な画を選ばないといけないわけですが、その判断はどのようにされるんですか? あらかじめ、プランを立てつつ、その場で臨機応変に判断・選択していくという感じなのでしょうか?

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播島 いやいや、その場ではなかなか反応できないですね。全体の狙いや方向性は撮影監督が決めますが、それに沿ってスイッチャーも事前にプランニングしておきます。そうなるとモニターの配置も重要で、「グループショット」とか「寄り」など、さまざまなことを考えながら配置しておかないと瞬時にボタンを押せないんですよね。

人間の限界ってやっぱりあって、僕も最大で40台くらいまで扱ったことはありますけど、さすがに20台以上になると見られないし、指も動かないですね。20台くらいまでなら、なんとか瞬時に感覚でスイッチを押せるようにはなりますけど、それ以上になると人間の視野や反応の限界があるので、ある程度は決め打ちしないと無理です。

――コンサートの生中継となると、アーティストがあっちこっちに動いたり、予想外のこともあるかと思います。

播島 ありますね。そういう場合を事前に想定してキャッチできるカメラを置いておくわけです。バーッと急に動かれても、引きの画で見せればどこに行ったのか分かりますし、動きをすぐに追えるように良い位置でボタンにアサインしておくということが必要になってきます。そういう自分なりの準備はしておきます。

やはり経験と準備、それから瞬発力ですね。どういう画を撮るかという狙いはディレクターと撮影監督がある程度は決めているので、そこで「このカメラはこうなった時、こういうふうに使おう」と準備するのがスイッチャーの仕事です。生中継では特に、今そこで何が起こっているかを見せられるかという瞬発力は大事ですね。 

失敗したこともたくさんありますよ。昔、サザンオールスターズのライブで桑田佳祐さんの目線がこっちに来ているのに全然ボタンを押せなくて「早く押せよ!」と怒られたりしたこともありました(苦笑)。

取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道

後編に続く