2022.07.15

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第2回 WOWOWクリエイターアワード表彰式&最優秀賞「連続ドラマW いりびと-異邦人-」萩原健太郎監督インタビュー

第2回 WOWOWクリエイターアワード表彰式&最優秀賞「連続ドラマW いりびと-異邦人-」萩原健太郎監督インタビュー

WOWOWが、自社で制作したオリジナルコンテンツを対象に、チャレンジ精神あふれる企画への取り組み、卓越した企画の成立に貢献した優秀なクリエイター、プロデューサー、ディレクター、技術者個人を表彰する目的で、昨年創設した「WOWOWクリエイターアワード」。今年で2回目を迎える同賞の表彰式が6月29日に開催された。

最優秀賞に輝いた「連続ドラマW いりびと-異邦人-」の萩原健太郎監督をはじめ、優秀賞を受賞した 「連続ドラマW 華麗なる一族」の西浦正記監督、「大橋トリオ LIVE AT MUSIC HOUSE」の勝田正志撮影監督の代理の松井菜穂プロデューサー、「連続ドラマW 邪神の天秤 公安分析班」の内片輝監督らが出席。表彰式後には、最優秀賞の萩原監督にインタビューを行ない、受賞の喜びやWOWOWとのドラマ制作について語ってもらった。昨年に続き、今年の表彰式でも、各賞を受賞したクリエイターごとに文面の異なる"熱い"表彰状が授与された。

新たなジャンル性を切り拓いた、最優秀賞「連続ドラマW いりびと-異邦人-」萩原健太郎監督

<最優秀賞> 「連続ドラマW いりびと-異邦人-」 監督:萩原 健太郎

最初に登壇した最優秀賞の「連続ドラマW いりびと-異邦人-」の萩原監督への表彰状は「2021年初夏に全編京都で撮影された本作は、梅雨入り暫くでクランクインし......」という文章で始まり、「目にも耳にも美しい京都やアートを切り取った本作でしたが、これに留まらない圧倒的な"新しさ"が随所にあります。それはいにしえの地・京都と、米国で映像を学んだ萩原監督という若き才能との文化を跨いだ見事な融合であり、作品そのもので温故知新を現したものとも言えます」、「東映京都撮影所の古参スタッフから曲者だらけの出演者たちまで、全方位に分け隔てなく真摯に向き合うことで、自身と周囲の可能性を最大限に引き出した」、「本作が切り拓いたジャンル性は、制作者と視聴者の双方にWOWOWのオリジナルドラマの新たなる可能性と示唆を与えてくれました」と監督の功績をたたえる。

2207_creator-award_syojo_iribito.jpg萩原監督は「たくさんの才能あふれるクリエイターの方たちの中から選んでいただけたことが、何よりうれしかったですし、自分の励みになりました。ただ、本当にこれは自分だけで取らせていただいたものではなく、どんな時もサポートしてくださった武田吉孝プロデューサー、植田春菜プロデューサー、そして京都のいままでのルールを無視してまで、僕のやりたいことを叶えてくれた東映京都のスタッフの皆さんのおかげだと思っています。この賞に恥じないよう、今後もたくさん作品を作り続けていきたいと思います」と受賞の喜びを口にした。

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名実ともにWOWOWを象徴するドラマとなった「連続ドラマW 華麗なる一族」

<優秀賞> 「連続ドラマW 華麗なる一族」 監督:西浦 正記

続いて、優秀賞に輝いた「連続ドラマW 華麗なる一族」の西浦監督への表彰状は、「撮影・美術・衣裳・ヘアメイク、細部に至る徹底的な拘りにより、高度経済成長期の日本という重厚な世界観が見事に構築」、「中井貴一さんをはじめとする錚々たる俳優陣が、それぞれこれまでのイメージを払拭するような熱演を見せてくれたこと、これもひとえに西浦監督が培ってきた演出の技の賜物」、「名実ともにWOWOWを象徴するドラマ、紛れもない"メイドバイWOWOW"の『華麗なる一族』となりました」と西浦監督の手腕をたたえる言葉が並んだ。

2207_creator-award_syojo_kareinaru.jpg壇上に上がった西浦監督は「大変な撮影でしたが、1日、1日、1カット、1カットを積み重ねていきました。僕自身、フリーになって初めてのお仕事だったんですけど、自分が本当にやりたいこと、理想を追いかけて、それを実現させていただけました」と感謝の想いを語る。

「連続ドラマW きんぴか」、「連続ドラマW 引き抜き屋 ~ヘッドハンターの流儀~」に続き、本作がWOWOWでの3本目の作品となった西浦監督は、WOWOWを「コンテンツの種類がいっぱいあるメディア」と評し「これからもいろんなものにチャレンジさせていただければ!」とWOWOWとのさらなる協業への意欲を口にした。

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アーティストの自宅リビングでの撮影を可能にした技術と気遣い

<優秀賞> 「大橋トリオ LIVE AT MUSIC HOUSE」 撮影監督:勝田 正志

同じく優秀賞を受賞した「大橋トリオ LIVE AT MUSIC HOUSE」 の勝田撮影監督への表彰状には、「撮影監督として、大橋トリオのメロディーや歌詞から世界観を読み解き、自宅のリビングという撮影場所の制約を解放。窓外の映り込みや、情景のみを撮るためのカメラマンを配置するなど、部屋の外側にも表現の拠り所を拡げました」、「屋外での本番一発撮りにもピリつくことなくスタッフ皆が優しい気持ちで収録に臨めたのは、勝田さんの温かな声掛けと目配せのおかげ」など、勝田さんの類まれな技術力、クリエイティビティーはもちろん、現場での振る舞いを含めた一流カメラマンとしての総合力によって生まれた美しい映像をたたえる言葉が綴られた。

2207_creator-award_syojo_oohasitrio.jpg勝田さんは別の現場での仕事のため、表彰式は欠席となったが、松井プロデューサーが勝田さんから預かった手紙を代読。「この度は、第2回WOWOWクリエイターアワード優秀賞をいただき、誠にありがとうございます。撮影の仕事を始めて約30年になりますが、音楽関連の映像で賞をいただける日が来るなど想像したこともなく、ご連絡を頂いたときにはとても驚きました。この作品は、アーティストの自宅という特別なロケーションでの撮影であり、それを最大限に活かした世界観で創り上げることができました。自分にとっても、思い入れのある特別な作品であり、この作品を評価していただけたことをとてもうれしく思っております。もちろん、これは私ひとりの力ではなく、プロデューサーの松井さんをはじめ、他のカメラマンやスタッフの力があってのことです。皆さまに感謝いたします。本来ならば、この場にお伺いして直接お礼を申し上げるところですが、どうしても都合がつかず欠席させていただくことをお許しください。これからも、いい作品を作れるように精進していきたいと思います。今後とも宜しくお願い致します。」と受賞の喜びを伝えた。

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WOWOWで監督作11本!「刑事ドラマを撮らせたら日本一!」内片輝監督

<優秀賞> 「連続ドラマW 邪神の天秤 公安分析班」 監督:内片 輝

3人目の優秀賞受賞者、「連続ドラマW 邪神の天秤 公安分析班」内片監督への表彰状では同作がWOWOWのオリジナルドラマとして最長となった「殺人分析班」シリーズの最新作であり、内片監督にとっては実に11本目のWOWOW監督作であることに触れつつ、「プレッシャーのかかる全10話の長編ながら、回を重ねるごとに数字が上がる理想的な高利用となり、WOWOWドラマファンの期待に見事応えてくれました」、「刑事ドラマを撮らせたら只今日本一ではないかと思わせるほどに磨き上げられた、緊迫感ある映像スタイルは、もはや"内片節"と命名されて然るべき」など最大限の賛辞が贈られた。

2207_creator-award_syojo_zyasin.jpg内片監督は受賞挨拶で、「僕自身がWOWOWさんとお仕事したのは10年くらい前からですが、個人的に関わったのはもっと前の1990年代、お客さんとしてでして、当時、僕は『ファイティング・ネットワーク・リングス』や前田日明とアレキサンダー・カレリンの試合が見たいというモチベーションの下、お金を払っていました。昨今のネットフリックスやアマゾンプライムビデオ、ディズニープラスに関しても、『スター・ウォーズ』関連の作品が観たい!とか、デヴィッド・フィンチャーの『ハウス・オブ・カード』が観たい! といった明確なモチベーションがありました。今後、チャンスをいただけたら、『ライブもあるし錦織圭も見られるからWOWOWにぜひ入りたい』というだけでなく、『内片監督の「○○」が見たいから入るんだ!』ということを世の中で言われるくらい、良いものが一緒に作れたらいいなと思っていますので......チャンスをください!(笑)」とユーモアたっぷりに語り、会場は笑いに包まれた。

220715_220714_creator-award_uchihira.jpg表彰式に出席した田中社長は、WOWOWが他の放送局と比べてオリジナルコンテンツを作ってきた歴史が浅いことに触れつつ、それを「決して弱みとは思っていません。力のある外部の才能が多く集まりやすい環境であり、よりバラエティに富んだ人たちと手を組める環境――それは強みだと思っています」と語り、クリエイターたちにWOWOWとのさらなる協業を呼び掛けた。

表彰式後には萩原監督へのインタビューを実施し、あらためて受賞の喜び、作品に込めた想いなどを語ってもらった。

原作者・原田マハの「本物の京都を撮ってほしい」という言葉に出した"答え"とは――?

220714_creator-award_sub-hagiwara2386.jpg――最優秀賞受賞おめでとうございます。「連続ドラマW いりびと-異邦人-」がこのように高く評価されたことをどのように受け止めていますか?

本当にうれしいです。WOWOWさんの作品には、監督だけでなくさまざまなクリエイターさんが参加されていて、非常に優秀な皆さんが関わっている中で、自分が最優秀賞をいただけたということがうれしいですし、今後の励みになるというのが率直な気持ちです。

自分にとっても新しいチャレンジで、これまでに撮ったことのないジャンルの作品でしたし、いままでの経験や考えてきたことを捨てて、ゼロからこの作品にとって何が良いかを考え、しかも京都の初めてご一緒するスタッフとの仕事でした。京都で撮影すること自体も初めてで、何もかもが新しい挑戦でした。その作品がこうして評価していただけたこともすごくありがたいです。

――ドラマが放送された際の周囲の反響などはいかがでしたか?

見てくださった方には「面白い」と言っていただけましたし、以前からの知り合いのドラマの監督の中には、僕のこれまでの作品の中でも「一番面白い」と言ってくださる方もいて。自分ではそこまで意識していなかったのですが、新しいやり方でやったからこそ、「僕らしさ」みたいなものが見えてないのが良いと言っていただくこともありました。

――あらためて、本作の撮影についてお伺いします。原田マハさんの小説を原作としたドラマ「いりびと-異邦人-」ですが、監督が演出する上で大切にされたことをお聞かせください。

原作者の原田マハさんにお会いしたときに言われたのが「本物の京都を撮ってください」ということでした。僕自身、京都は子どものころに行ったきりで、"本物"がなんなのかよく分からずに「困ったな...」という感じだったんですけど(苦笑)、原田さんを通じて京都の重鎮の方などをご紹介いただいて、ロケハンも含めて撮影の始まる2カ月ほど前からずっと京都にいました。

いわゆるステレオタイプな京都のイメージってあると思いますが、そこじゃない"何か"を見つけて、それと「いりびと-異邦人-」という作品がつながる着地点はどこなのか? ということを準備を進めながらずっと探していました。それが、(京都の人にとっては)異邦人であるヒロインの菜穂(高畑充希)とつながるんじゃないかと思っていました。

僕自身、京都に対して当初、撮影所も含めて「古い」というイメージを抱いていたのですが、そうじゃなくて実はフレッシュであるんだということ――それをWOWOWの視聴者の皆さん、特にターゲット層と言われる40代、50代の方だけでなく、もっと若い層の皆さんに見せたいなという想いがあって、それを探し続ける日々でした。実際、ロケハンをしていてもすべてが新鮮でした。

若い才能の発想×古参スタッフの技術で京都だからできたこと

220714_creator-award_sub-hagiwara2418.jpg――東映京都撮影所のスタッフ陣との撮影でしたが、そこで、京都をあまり知らない監督だからこそ、新たに取り入れたことなどはありますか?

細かい部分ですが、基本的に家具なども撮影所にあるものだけを使うことになっていたのですが、あえてタイアップで外部のものを使わせてもらったりしました。あとは渡月橋を人止めして撮影させてもらったんですが、それも初めてのことだったみたいです。

こういったことは、僕が何も分からずにサラッと希望を口にすることが多かったんですね(苦笑)。カメラマンさんがもともと東映京都撮影所の出身ではない方だったんですけど、そういう僕の希望について、裏で「あれはその通りにやった方がいいよ」と制作陣に言っていただいたりしたんですね。

若くて才能があって「京都で何かこれまでとは違うことができないか?」という想いを抱いているスタッフはたくさんいて、そういう方たちが多いからこそ、古参スタッフの皆さんともうまくやることができたんだと思います。

ただ、僕らが新しいことをやろうとしているのに対し、古参スタッフさんたちは反対するのではなく、どうしたらこちらが提示した希望を叶えることができるかと考えてくださって、そういう意味で京都の撮影でやりづらさを感じるようなことはまったくなかったですね。

高畑充希が見せた所作だけで感情を表わす演技のすごさ!

220714_creator-award_sub-hagiwara6789.jpg――ヒロインの菜穂を演じた高畑充希さん、その夫の一輝を演じた風間俊介さんらキャスト陣の印象も教えてください。

高畑さんが演じた菜穂は、前半は特に感情を出さない役なんですけど、どうしたら菜穂が魅力的に見えるのか? わりと勝手な人間なので(笑)、好きになってもらわなくていいんですけど、魅力的には見えてほしいなと思っていて、ちょうど高畑さんが出演していた「ウェイトレス」というミュージカルを観に行かせてもらったんです。そこでの高畑さんのちょっとした所作がものすごく美しくて......。ミュージカルなのでちょっと離れたところからそれを見ていたんですが、これが寄りの映像だったら、ちょっとした動きで菜穂の本当の感情を描けるんじゃないか? と思って、高畑さんに相談したんです。

高畑さんも「菜穂って本当にこんなに好かれない役でいいんですか?」という考えをもっていらして(笑)、そこで僕は「ちょっとした動きで彼女の本当の感情を表現したい」と伝えたら、それをすぐに理解して、こちらが何も言わなくても、そういう表現をしてくれるようになって、実際言葉で何か言わなくても、「あぁ、菜穂ってこういうことを感じているのかな?」「あれ?いま怒っているのかな?」と感じさせてくれて、本当に動きの美しい女優さんでした。

風間さんは、ものすごく素直な方ですね。こちらが言ったことに対して、真剣に考えて、いろいろな提案をしてくれるんです。でも、それが決して押しつけがましいわけでもなくて、やってみて違ったら「やっぱりこっちのほうがいいですね」とすぐに切り替えてくれる柔軟さも持ち合わせているんです。あれだけ芸歴の長い方なのに、すごく謙虚でまったくおごったところがなく、いい意味で"普通"の感性を持っていらして。

――高畑さん、風間さんに加えて、京都画壇で強い影響力を持つ日本画家・志村照山を演じた松重豊さん、素晴らしい才能を持ちながらも照山によって自由を奪われている画家の白根樹を演じたSUMIREさんなど、それぞれに個性的で、独特の存在感を持った俳優さんの競演による"化学反応"が魅力的です。実際に撮影現場で彼らの演技合戦を目の当たりにされていかがでしたか?

SUMIREさんが良い意味で"受け身"で、相手の演技に対するリアクションがきちんとできる方なんですね。高畑さんや松重さんとの芝居の中でよい化学反応が生まれるのを感じていました。松重さんは大きくて怖いんですよ(笑)。普段はすごく優しいんですけど、現場ではあえて照山としていらっしゃったんでしょうね、じーっと現場で京都弁の録音を聴きながらブツブツつぶやいて、威圧的な空気を放っていらして......。その空気にSUMIREさんはのまれつつ、でものまれないようにしていて、そうした様子はすごく印象に残っています。

――この「WOWOWクリエイターアワード」は昨年創設されたコンテンツプロデューサー、ディレクター、テクニカルディレクター、IT・CGクリエイターなどを対象にした賞ですが、こうしたアワードの存在を、クリエイターの側からどのように感じていらっしゃいますか?

すごくすばらしい賞だと思います。スタッフワークのクリエイティビティーに焦点を当てたアワードってあまりないですし、クリエイターのモチベーションの向上――ひいては技術や芸術性の向上につながるものだと思います。アメリカのアカデミー賞も、もともとはスタッフのモチベーション向上のために設立されたと聞いたことがありますが、まさしくそういう存在だなと思います。自分自身も含めて、励みになるアワードだなと感じています。

ジャンルの掛け算で新たに生み出したい「見たことのない」ドラマ

220714_creator-award_sub-hagiwara2388.jpg――「連続ドラマW いりびと-異邦人-」のプロデューサーでもある武田吉孝プロデューサーが書かれたという、表彰状の独特の称賛の言葉を耳にされていかがでしたか?

感動してしまいました(笑)。武田プロデューサーとは、僕が映画『東京喰種 トーキョーグール』を作るよりも以前から、知り合いを介してお会いしていて、僕が作ったものに対して、わりとハッキリと意見を言ってくれるんですね。辛辣なコメントをもらうことが多かったんですけど(笑)、それが今回、初めてこんなに評価していただけて、純粋にうれしかったです。あのコメントをもらえたことが、もしかしたら何よりうれしいかもしれません(笑)。

――今回、ドラマを制作されてみて、WOWOWに対し、どのような印象を抱きましたか?

この作品では「VENICE」というカメラとシュプリームプライムレンズを使用させていただいて、それは京都の撮影所にはなかったので、WOWOWの技術さんに貸していただいたのですが、そういう部分も含めて、WOWOWさんとご一緒したことで、技術的なところと芸術性の両方を突き詰めて、新しいことを試すことができたという印象が強いですね。

今回、WOWOWさんとお仕事をするのは初めてで、"WOWOWらしさ"について話せるか分かりませんが、そもそも今回のような企画が通ること、現場でも編集などでも僕の希望を受け入れてくださったこと、何よりも僕を監督として起用しているという時点で、チャレンジをすることをいとわない会社だなという印象はありますね(笑)。

――今後、WOWOWでどんな作品を作ってみたいですか? 挑戦したいジャンルはありますか?

「連続ドラマW いりびと-異邦人-」はアートミステリーですが、武田さんからお話をいただいたとき、「メロドラマにしたい」っておっしゃったんですね(笑)。そこからいろいろなメロドラマを見て調べて、「あぁ、正当なメロドラマとしてならいけるな」というところから演出を組み立てていきました。その"メロドラマ×アートミステリー"というジャンル感が新しかったんだなと思います。

そういう新しいジャンル感を見つけることができたら面白いなと思いますね。やっぱりみんな、見たことのないものを見たいと思うんですよ。だから、そういう新しい掛け算を見つけられたらいいですよね。

僕は時代劇をいつかやってみたいと思っているんですけど、時代劇も「古くさいもの」とされているじゃないですか? そこに何か新しいものを掛け合わせて、若い人たちが憧れるようなカッコいい時代劇を作ることができたらいいなと思いますね。

いまの時代、WOWOWだからこそできるクオリティーの高い若者向けのドラマを!

220714_creator-award_sub-hagiwara2403.jpg――WOWOWのこれからについてもご意見をいただきたいと思います。WOWOWだからこそやるべきこと、WOWOWが新たに挑戦すべきことはどんなことだと思いますか?

WOWOWさんの視聴者のメインターゲットってやはり少し上の年齢層ですよね? 少子化が進む中で若い子が少なくなっていって、上の世代が残したいろいろなものを背負わされながら生きないといけない時代で......。社会の中で若者向けに作られるものも少ないし、作られていたとしても、ちょっと真実味が薄かったり、エンターテインメントのクオリティーとして「どうなんだろう?」と思うものが多かったりする中で、しっかりと質の高い作品を作り続けてきたWOWOWさんが、もう少し若い人向けのコンテンツ、ちゃんと未来を想像できるようなドラマを作っていってほしいなと思いますし、自分もやってみたいなと今も話しているところです。

――最後に監督ご自身が目指す監督像、作品を作っていく上で大切にしていきたい哲学について教えてください。

やっぱり常にゼロから考えていきたいなと思っています。監督の仕事って「決める」ことだと思うんです。いろんなことを決断していかないと物事が前に進まないので。でも、京都でやってみてよかったなと思ったことが「決める」ことをギリギリまでしないということ――「迷い続ける」ことだったんですね。自分が考えたことが本当に正しいのか? 迷い続けることで新しい答えが見えてくるんじゃないかと思いました。

経験を重ねることで「こういう時はこうする!」となりがちなんですけど、果たして本当にそれでいいのか? 疑い続けないといけないなと感じています。だからスタッフや俳優たちと話をするときも、全員が同等だと思っています。スタッフィングすることにおいて、ちゃんと自分が責任を持たなくてはいけないとは思っていて、一方で現場で彼らが言うことに関しては、フラットな目線で拾うことを意識しています。

だから自分の現場では割と皆好きなことを言ってくれるんですけど、それは自分にとってはやりやすいし、自分の意見がきちんと通る――全員がものづくりに参加しているという意識を持てる現場にしたいなと思っています。

220714_creator-award_sub-hagiwara6788.jpg取材・文/黒豆直樹  撮影/祭貴義道