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人間の森をぬけて──ひとりになった森山直太朗は次へと進む

人間の森をぬけて──ひとりになった森山直太朗は次へと進む

森山直太朗 × WOWOW 音楽部吉田雄哉プロデューサー

取材が行われたのは森山直太朗のプライベートスタジオ。まさに映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』の冒頭で、森山が真情を吐露していた部屋である。監督の番場秀一はここで彼の言葉を聞き、映画の軸となる部分を見つけたのではないだろうか──。

2018年から年をまたいで全国を回った全51公演のコンサートツアー『人間の森』は森山の音楽、表現、創作に大きな変革をもたらすことになるのだが、仕事で関わる以前から森山直太朗のファンだったWOWOW吉田雄哉プロデューサーはその予感をキャッチし「このタイミングでしか撮れないドキュメントがあるんじゃないか」と、ツアーの舞台裏を密着するプロジェクトを立ち上げたのだった。

結果的にそれはドキュメンタリー番組だけにとどまらず、『人間の森』をぬけた森山直太朗のいまを描いた映画となって完結した。決別を経てひとりになった森山直太朗。その日常は積み重ねられ、次のうねりへと進んで行く。

ただライブを放送するだけじゃなく、付加価値の部分を作っていきたい

──コンサートツアー『人間の森』の舞台裏に密着したWOWOW『森山直太朗「人間の森」ドキュメンタリー』が5月に放送されました。放送後も撮影を続け、ドキュメンタリーでは描かれなかったツアー最終局面や、2019年10月現在の森山さんを映し出す映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』ができあがりましたが、最初からドキュメンタリー番組と映画を作るつもりだったのでしょうか?

吉田 映画のことはまったく考えていなかったです。直太朗さんとはこれまでもライブ放送だけじゃなく、森山直太朗 15thアニバーサリーツアー『絶対、大丈夫』と連動したドラマや、舞台公演『あの城』といった企画でご一緒させていただいているんですが...単にライブを放送するだけではない見せ方をなにかできないかと考えていたんです。

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WOWOWの音楽ジャンルは、基本的には音楽ライブを撮って放送するスタイルなんですが、直太朗さんチームとディスカッションするなかで「ライブをどう面白く見せるか」という付加価値の部分をもっと作っていきたいと思ったんですね。2年前の『絶対、大丈夫』でライブと連動したドラマを作ったのもそういった理由なんですが、今年もライブとプラスアルファでなにかできないかと思ったんです。

810naotaro_dramazettaidaijoubu.jpgドラマ「絶対大丈夫」

810naotaro_theatre.jpg森山直太朗 劇場公演「あの城」

森山 僕は一方で、「シンプルなミュージックライブを放送するだけでいいんじゃないか」とも思っていて。純粋にライブを見てもらえるだけでもありがたいことだから、そこに連動する番組をわざわざ作らなくても...っていう気持ちがあったんですね。だから「また吉田くんがなんか言い始めたぜ」って思ってました(笑)。

その、コンサートだけじゃない付加価値の部分、枝葉となる部分にWOWOWさんが興味を持ってくれているっていうのは、ありがたいことだと思うんです。ただ、限られた時間のなかで、どのくらいクオリティーのものができるかっていうのは、なんの保証もなかったですね。

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──今回、その付加価値のところを"ドキュメンタリー"にしたのはなぜでしょう?

吉田 今回のツアーに向けて、直太朗さんチームも「考え方を含めて、根本的なところを変えていこう」とされているのを知って...このタイミングでしか撮れないドキュメントがあるんじゃないか、今回のツアーに関しては、直太朗さんとその仲間たちを映像で追ってもいいんじゃないかと思ったんですね。実はこれまで、「ドキュメンタリーはどうだろう?」なんて話が上がることってなかったんです。避けて通ってきた道というか。というのも、直太朗さんって...ご自身としても、直太朗さんを見るお客さんからしても、普通の姿を見せるより、キャラが乗っかっていたほうがいいんじゃないかと思っていたので。

森山 それはね、俺もすごく思う(笑)。

吉田 そういう意味で『絶対、大丈夫』では、ドラマという形で"キャラクターとしての森山直太朗"を演じていただきましたが、今回は唯一ドキュメントができるタイミングなんじゃないかと思ったのと、番場秀一監督がいてくださったのが大きい理由ですね。

──ツアーの裏舞台まで長期にわたりカメラで撮影されることに、最初は戸惑いなどもあったと思うのですが?

森山 どんなに気心が知れている相手といえども、最初はカメラを向けられるとフィルターがかかりそうな自分がいました。そういったフィルターがかかることで、ドキュメントとしてのピュアネスって目減りしていくと思うので、「いつもの自分であろう」と意識するというか......なんかよくわからない感じがあって(笑)。でも、ドキュメントってそういうことだとも思うんです。カメラを向けられたときに、準備ができていない感じも含めた所作も映し出されるっていう意味で。

──そうやって"森山直太朗のいま"を丸ごと映し出すことができたのは、『人間の森』のミュージックビデオ(MV)を手がけた番場さんが撮ったからでしょうか?

森山 そうですね...バンバン見たことあります? もうね、ほんと"地獄の門番"みたいな顔をしてるんだけど(笑)、その風貌とは裏腹にめちゃめちゃ親近感があって、チャーミングな人なんですよ。彼との付き合いは2年弱なんですが、友達感が強いので、ずっと撮られていくうちにバンバンもバンドメンバーみたいになっていって。バンバンがいない日があると、ちょっと寂しいみたいな(笑)。

俺たちも真剣に音楽をやっていて、バンバンもそれと同じか、それ以上の向き合い方でドキュメントのことを考えている。同じ作り手として「この人はきっと、俺たちがどんなにダメな部分を見せても、一緒に傷ついてくれるだろう」って思えるような関係だったから......バンバンが撮るっていうのは、大きかったかもしれないですね。

吉田 番場さんと直太朗さんが、良いシンパシーを感じて『人間の森』のMVを作っているっていう情報もいただいていたので、ツアーの収録も含めて、今回は全部番場さんにお願いするのがいいんじゃないかと思いました。『人間の森』をひとつの線で結んでくださるんじゃないかと...僕から改めてお願いしたというよりは、「もう、撮るなら番場さんだよね」って自然となっていった感じです。

森山 バンバンならその季節にしか撮れないもの、それでしかないものを作ってくれると思っていましたね。


「いまの森山直太朗をちゃんと見なきゃ」って思うような作品になっている

──ドキュメンタリーを撮り終わり、「映画も作ろう」と思ったのはなぜでしょうか?

吉田 ドキュメントのオフライン(仮編集した映像)を最初に番場さんからもらったときに、「映画にしたいな」と思っちゃったんですよね。ミュージックビデオを主に手がけている番場さんが切り取る画がすごく美しくて。ただの日常が描かれているんですが、まるで台本のあるドラマを観ているかのような画作りだったんです。コテコテのドキュメンタリーに仕上がっていたら「映画にしたい」とは思わなかったでしょうが、番場さんの映像を見て「直太朗さんの活動を、大きな画面でもっと多くの人に見てもらいたい」と思いました。

810naotarofilm2.png映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』より

──「映画も作る」と聞いたときに、森山さんはどのように思いましたか?

森山 コンサートツアーも終盤に差しかかっているなかで、映画の話を聞いて...(5月に放送された)ドキュメントがその季節の自分たちを肯定できるようなものだったから、「面白いんじゃない? みんながやりたいんだったら、いいんじゃない?」っていうのが正直なところでした。自分を題材にした映画って、あんまりリアルじゃなかったので「本当にできるのかな?」と思いつつ。

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そもそも、バンバンが一番悩んでたから。映画を撮るつもりはなかったのに、周りのみなさんが「映画を撮ろう!」ってなって(笑)、当のバンバンには意志がなかったんですね。でもその、撮る側に欲がないっていうのは良い作品ができる予感でもあって...すごくピュアなものができるっていうことだからね。ただ、そのピュアなところにどうやって肉付けしていくのかっていうのは......本当に悩んでいたから。バンバンの葛藤や苦悩は計り知れないものがあったと思います。

吉田 本当におっしゃる通りで。「映画をやる」とは言ったものの、内容が決まっていない状態がずっと続いていて。各所ディスカッションを重ねていく中で、最終的に番場さんがどう考えて、どう作ったかを見たのはオフラインがあがってきたタイミングでした。「番場さんが動き出した」っていうのは聞いていましたが、僕としては番場さんと直太朗さんの関係のなかで、なにかができあがっていくのをただ見守っていた状況でしたね。
それで、オフラインを見てツアーを追って、結論まで辿り着いて、その後の直太朗さんを最後に少し映し出すっていう、本当に2019年の直太朗さんを追った映画になっていたので「なるほど、こういうことだったんだ。すごいなあ」と思いました。

810naotarofilm4.png映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』より

──冒頭の森山さんの吐露が衝撃的でした。

森山 バンバンは本当に悩んでたから、俺や御徒町(凧。楽曲共作者でツアーの構成・演出を担当)からヒントを探り出そうと、何度も打ち合わせをしていたんですね。それで端折って話しちゃうけど、『人間の森』を経て、僕はひとりになったんです。ひとりを選んだの。それをドキュメントとしてツアーが終わってすぐの8月ぐらいかな? ひとりになったことを象徴するような、ファンタジーなものを撮ろうかっていう話にもなったんですね。そのときに御徒町が「いままで行ったことがある小屋(ライブハウス)を自分で手配して、自分でお客さんをゼロから集めたら?」とかって言ってきて。「あ、これはバンバンに全部話さないとダメだ」と思ったの。俺のいま抱えてるヒリヒリした部分とかも含めて......泥をすくうようなことをしないと、バンバンが奮い立たないなと思って。

──その「全部話す」というのが冒頭のシーンになるのでしょうか?

森山 そうそう。俺がここ(取材したスタジオ)で短パン姿で話しているところですね。まさかバンバンがカメラを回してると思わなかったんだけど、あの吐露から、たぶんこのムービーが着火したんだと思う。俺は「これを聞いたバンバンが何を撮るのかな?」と思っていたんだけど、まさかあれをそのまま、しかも最初から使うって(笑)。「ここ使うの!? いや~、マジか!?」って思いましたね(笑)。だから、救われないところから映画が始まるんです。

でもその"救われなさ"っていうのが、ドキュメンタリーとして、よりリアルなライブ感や息遣いを生んだと思うんです。そういったところも含めて、結果的に曲がすごく響いてきたんですよね。僕にとってはこんな恥ずかしい自分の姿はないし、「こんな部分を見せたところで」っていう気持ちが99%だったの。でも、そんななかに一縷の光がちゃんと差し込むようなところがあって......音楽が音楽然(ぜん)として、音楽していたんですね。それこそが、この映画の唯一の救いだと思ったんです。

吉田 僕、ずっと不安だったんですよ。この作品は直太朗さんや御徒町さんの内面にかなり寄っているので......僕は最初のオフラインを見てすごく感動しましたが、その感覚が正しいのかどうか、もはやわからなくなっていて。「そこまで直太朗さんに詳しくない人が見たらどう思うんだろう?」と心配でしたが、試写を重ねていくうちに、そういった人たちから「すごく考えさせられたし、なにより歌が良すぎる」といった感想が聞けたので、番場さんが表現しようとしていたことが、見てくださる方たちにも伝わるだろうと思いました。番場さんはじめ、みなさんには心から感謝しています。

森山 本当に、バンバンのことを信じてよかったなって思いましたね。ここで描かれている自分は、僕が本来望んでいる自分の姿や、理想としている自分の姿とは違うけれど、ドキュメントってそういうものだから。だから、これを見て僕は「ありがとう」としか言えなかったですね。この映像のために時間や愛情を費やしてくれてありがとうと。全編を通して、バンバンの愛情がヒリヒリと伝わってくる感じがしてね。
と同時に、いまでもこの作品が本当の意味で自分の活動にとって有効なものだったかはわからないです。だけど、見たときにすごくドキドキしましたし、人や世界と対峙していくうえで、この作品が自分にとってどんな意味を持っていたのか、これから先の時間にしか答えはないなと純粋に思えたから。それって、めちゃめちゃ良いドキュメントじゃないですか? わかりやすい共感や完結したものがないけれど、本当に興味を持った人が......自分で言うのもなんだけど、「いまの森山直太朗をちゃんと見なきゃ」って思うような作品になっている。本当に感謝しています。

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ファンだった直太朗さんと仕事ができるのは、社会人になって一番幸せなこと

──WOWOWとしてひとりのアーティストの内面まで向き合って番組作りをしていくのはチャレンジでもあると思うのですが、吉田さんは森山直太朗というアーティストとどういったモノ作りをしていきたいと思ったのでしょうか?

森山 席外す?

吉田 ははは!

森山 本人を目の前にして、なかなか言いにくいんじゃない?「別になにもないっすよ」とかって言えないしね(笑)。

吉田 いや、あり余るほどあるので(笑)、居ていただいて大丈夫です。ご本人を前にして、ちょっと恥ずかしいんですけど...。僕自身、幼少期から直太朗さんの大ファンだったんです。スポーツや恋愛をしていくなかで、直太朗さんの曲が常にあって、ライブも行ったりしていて。

その後、縁あってWOWOWに入って、最初の3、4年は番組宣伝映像制作チームにいて。そこで直太朗さんの番組の宣伝を作れることになって、初めて直太朗さんと出会って、あれよあれよとここまで来ましたが......「自分は直太朗さんのファンだった」っていう目線は常に忘れないようにしています。
アーティストさんとお客さんの間に僕らはいるので、僕らがゼロからなにかを作っているわけではないんですね。だからこそ、WOWOWの独りよがりになってはいけないし、「アーティストのどんな面をどう見せると、お客さんは満足するだろう?」って、常に考えないといけない。そこが一番悩ましいんですが、僕はファンとしての目線はあると思っているので......その目線を大切に、その時々で出会った人たちと、その時々でベストなものを出していけたらいいなと思っています。
特に直太朗さんとのコラボレーションでは、かなり自由に僕らの思いをお伝えしていて、すべてを受け入れてくださっているかはわかりませんが、「一応やってみるか」とスタートしてくださったところが嬉しいし、本当に感謝しています。

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──森山さんはWOWOWとのモノ作りに対して、どういった印象をお持ちですか?

森山 まずライブですよね。ライブを「生放送したい」って言ってくれていることに対して僕自身、生で歌って、そこにいる人たちに聞いてもらうっていうところから活動が始まっているし、自分で言うのもなんですけど、僕の良さってたぶん"生"だと思うから、そういった原点の部分を生々しく放送してもらえるのは、すごくありがたいことだと思います。

810naotarofilm1.png映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』より

ましてやヨッシーみたいなね、独自の思い入れが強い人が担当してくれることで、よりオリジナリティのあるものになるんじゃないかと思いますから。だってねえ? 僕らは舞台上で音楽をやるだけですけど、それをどう撮りたいかっていうのは「ただ撮って流す」っていうのだったら、たぶんWOWOWさんとやっていないと思うし。そこにはヨッシーの意志があるから、そういった関係はとても貴重だと思います。

──ちなみに、WOWOWの番組はご覧になっていますか?

森山 僕ね、WOWOWっ子なんです(笑)。まず、リーガとリーガダイジェストを見てるでしょ。それから映画。あと、WOWOWは舞台を放送してくれるのがいいですよね。野田(秀樹)さんとか大人計画とか見てましたし......舞台はよく見ます。クドカンさんの『遠藤憲一と宮藤官九郎の勉強させていただきます』みたいな、少しトリッキーな、実験的なのもすごい好きです。ノンフィクションWも見てるし......ほんとWOWOWっ子(笑)。

──仕事に対する「偏愛」についても伺いたいのですが、吉田さんはまさに森山さんの大ファンだったというのが偏愛に繋がっていますね。

吉田 そうですね。僕のなかでは直太朗さんとのお仕事に対しての偏愛が異常かもしれないです。ド偏愛というか(笑)。だから一番楽しいですね。直太朗さんのチームと関わって、微力ながらもアウトプットのお手伝いをさせていただけているのは、社会人になって一番幸せなことです。

日常の積み重ねの先に、創作や表現がある

──森山さんが音楽をやっていくなかで大切にされているのは何でしょうか?

森山 音楽にとどまらないんだけど、ライブ感ですね。もうそれしかない。ライブ感って価値観の話なので、人によって違うと思うんです。僕にとっては、日常のうまくいかないことも含めた積み重ねの先に、創作や表現がある。そういう意識がなく、ステージで突然ライブしようと思ったところで、もう間に合わないというか...。

810naotarofilm5.png映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』より

だから、一番重きを置いているのは日常かもしれないですね。もちろん、人によっては気合で乗りきるライブもあると思いますが、それを俺が選んでしまったら今回ここまで苦しんだ自分とか、季節とか、なにより御徒町やバンバン、バンドメンバーに申し訳が立たないって思うから。ライブや創作はもう、この日常から始まっているんです。そして、終わりがない。「いいものが作れた」、「いいライブができた」っていうのはひとつの安心材料にはなるけれど、もう次が始まっているから。でもそれって豊かなことなのかな、とも思います。そうやって悩みながら、仕事できるなんてね。

──映画でも、あれだけヒリヒリするようなライブツアーが終わって、その後にはもう次の日常が描かれていたので、「こうやって続いていくんだな」と感じました。

森山 今回の『人間の森』の裏に流れていたテーマって、"自分や他人や世界との決別"だと思うんです。自分のなかにある大きな不安にしがみついて、自分を責めたりすることって僕のなかでは安泰だったんですね。「不安って安心じゃん」みたいな。でも、「ここでそれを手放さないといけない」って思って。御徒町がずっと舞台上で僕に求め続けていたものは、彼とのひとつの季節の決別なんだって思ったの。

──映画のなかでも御徒町さんとの決別が描かれていました。

naotaro_okachimachi_1205_2.jpg御徒町凧~映画『森山直太朗 人間の森をぬけて』より

森山 彼に電話して「お前が心から主体的に、能動的に『やりたい』って思えることをやりな」って、なんだか久しぶりに先輩みたいなことをしたんだけどアイツあんな態度がデカいのに、サッカー部の1こ下の後輩なんですよ(笑)。

そうしたら「......うん。ひとりで旅立たなきゃいけないんだね」って彼がポロっと言ったのね。それがすっごく意外で。あれだけ俺に自立を求めていた人だけど、彼自身にはそういう不安もあるんだって。彼には彼なりの、俺には俺なりの表現をお互いに探していこうって、いまの状況になっているんです。

もう一回、『さくら』からやり直す

──ところで、ドラマ『同期のサクラ』主題歌『さくら(二〇一九)』は、森山さんの代表曲『さくら(独唱)』(2003年)の新録ということで大きな話題となりました。なぜいま『さくら』を新録する気持ちになったのでしょうか?

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森山 『さくら』はよっぽどなにか大きな理由がない限り、再レコーディングとかって考えられなかったんですね。独唱という形で多くの人たちに知っていただいている曲なので、それを上回るエネルギーっていうのがなかなか......でもね、心のなかにはあるんです。「いまの歌声で、いま作った『さくら』を聞いてほしい」っていうのが。それでもやっぱり「あの時期にしか作れないものを作った」っていう自負もあるから、僕はセルフカバーやリレコーディングみたいなことは、よっぽどの理由がない限りやらないんですね。

今回もドラマスタッフの方からオファーをいただいたときに......喉から手が出るぐらいやりたかったんですけど、同時に、メディアに無責任に乗っかって、いままで築き上げてきたものや、いままで僕に興味を持って粘り強く活動を見守り続けてくれた人たちを裏切るようなことはしたくないとも思ったんですね。そこのせめぎ合いがすごかった。

──やることに決めた理由はなんだったのでしょう?

森山 お話を聞いたときに、まずすごく熱意を感じたんです。あと、ビジョンもしっかりしていた。それになんて言うか、「この人とは一緒に夕暮れまで遊べる」って思えるような、ピュアな心を持った人だったんですね。

と同時に、『人間の森』を経てひとりになって。思い返してみれば、僕が『さくら』を歌ってたときって、事務所もなにもない状態だったんです。レコード会社と二人三脚で、ギター1本持って、沖縄から北海道まで回って、とにかく草の根活動をやっていた。「そのときの状況に、いまってすごい似てるな」と思って。

もともとセツナ(セツナインターナショナル)って、社長をやったことがない御徒町と、マネジメントや運営をやったことがないタップ(前田貴子・現事務所社長)に俺がある種無茶振りして、その『さくら』によって開かれた環境を守るところから始まった組織なんです。「あ、そうか。セツナの歴史って守りの歴史なんだ」って気づいて、「だったら自立しないといけない」と思ったんですね。「いまこの曲で、もう一回やり直せ」って言われているような気がして。

──『人間の森』を経たタイミングで、『さくら』の新録の話がきたというのは......。

森山 なんの因果なんでしょうねえ? これまでは内側を向いて、みんなですったもんだしながら、純度をとにかく高めていくことをしていたんだけれど、俺たちは音楽、表現、創作、言葉っていう手段で、もっともっと外に飛び出していかなきゃいけないんだっていうことを強く感じて。なによりも、自分の心が欲していて、モチベーションがそこにあったんですね。

なので今回、満を持して...もちろん、編曲とピアノをやってもらった世武裕子の存在や功績は計り知れないぐらい大きくて、彼女の助けも相まっていままでにない『さくら』ができたんじゃないかと思っています。でも、俺はなにも変わってなくて、"ただ真ん中で歌ってる"だけというか。『さくら』ってそういう堂々とした、「ずっといるけど?」みたいな図々しさもあるんだよね(笑)。独唱になろうが、合唱になろうが、二〇一九とかになろうがそれぐらい凛としたものがあるんだと思います。

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──それでは最後に、吉田さんから森山さんに一言いただけますか?

吉田 数々のワガママを受け入れてくださいまして、本当にありがとうございました。

森山 とんでもない。こういう話って、あんまり話さないんですよね。だから「吉田くん、ちゃんと考えてるんだ」と思いました。「ちゃんと」って言うと変だけど、もうちょい......考えてないかな? って(笑)思ってたんだよね。我々と一緒にやってる理由っていうのが、意外と真面目にあったんだなって。

吉田 それはありますよ! 面白半分ではないので(笑)。

森山 面白半分じゃないんだ(笑)。面白半分ぐらいでもいいと思うけどね(笑)。

──もともとファンだったっていうのは、森山さんに伝えていたのでしょうか?

森山 言葉では言われてますけど本当のところはわからないですよ?

吉田 ちょっとちょっと!(笑)本当にファンでした。

森山 だって俺、真島昌利さんに会ったら、本当に好きすぎて話しかけられないもん。

吉田 僕もだから、直太朗さんと会うときはずーっと緊張してるんですよ。

森山 うそだよ!(笑)うそ! はい、撤収!(笑)

吉田 違う違う。ほんと緊張するんですよ! いまでこそちょっと......ほぐれてきましたが(笑)、最初の3年とかは緊張して喋れなかったです。
だから、こんなふうに喋ったことがないんだと思います。

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森山 ほんと、ヨッシーとこういう話をすることってないんですよ。「映画の話をしながら一杯飲もうぜ」みたいなこともなかったから。むしろそれをやっちゃってたら、ドキュメントの方向性も危うかったかもしれないから、結果的には正解だったのかもね。でも、今日は僕も普段聞けないような話が聞けたので、楽しかったです。

吉田 ありがとうございました!


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画『森山直太朗 人間の森をぬけて』は
12月13日(金)よりWHITE CINE QUINTO他 全国公開

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映画「森山直太朗 人間の森をぬけて」公開直前!森山直太朗特集

・ドラマ『絶対、大丈夫』12/10(火)午後1:00
・森山直太朗 15thアニバーサリーツアー『絶対、大丈夫』12/10(火)午後2:00
・森山直太朗 劇場公演「あの城」12/11(水)午後1:00
・森山直太朗『人間の森』ドキュメンタリー 12/12(木)午後1:00
・森山直太朗 コンサートツアー2018~19『人間の森』12/12(木)午後2:00

取材・文/とみたまい 撮影/祭貴義道  制作/iD inc.

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