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「制作技術」一筋20年。生え抜きがこだわる

「制作技術」一筋20年。生え抜きがこだわる"超現場至上主義" 

グラミー賞 テクニカル・マネージャー 竹下耕平

音楽界で最も権威ある賞として全世界の音楽ファン、ミュージシャン、音楽関係者が注目するグラミー賞。ロサンゼルスで開催される『第62回グラミー賞授賞式』の模様を今年もWOWOWは1月27日に二カ国語版(同時通訳)で独占生中継する。このような「生中継」を支える多くの技術スタッフをWOWOWは抱えているが、今回はそんなひとりにスポットを当てる。
グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞といったアワードの数々や、グランドスラムのようなスポーツ中継の頂点の舞台──現地の熱量を最前線から届けたい。制作技術のTD/TMとして20年、現場に立ち続けてきた竹下耕平の思いはシンプルだ。

番組制作に関わる技術を司る「制作技術」の仕事

──竹下さんは'94年、新卒の技術採用でWOWOWに入社されたとのことですが、なかでも制作技術のキャリアが長いとうかがっています。

そうですね。最初の5年半はマスター(放送送出・監視等の業務を担当)にいましたが、その後はずっと制作技術なので、20年ちかくになります。

──制作技術とはどういった仕事をするのでしょうか?

中継や収録、スタジオやサブコンの業務、編集、回線、オンデマンド配信など、番組「制作」に関わるあらゆる「技術」を司っています。カメラをやりたくて入社しましたが、配属された当時は10人もいない部隊だったので、音声も回線まわりも、一通り全部経験しましたね。いろんなことができたのは楽しかったですし、貴重な経験だったと思います。カメラだけでなく、一通り経験したことが、制作技術の仕事をする上では非常に有益だったと今も思っています。

──現在は主にどんな仕事をされているのでしょうか?

現在はWOWOWエンタテインメントに出向していて、中継事業を行なう部署で仕事をしています。具体的には、カメラやスイッチングがメインですね。部署のスタッフは30人ちかくいるので、役割は細分化されています。カメラをやるスタッフ、スイッチャーをやるスタッフなどがいて、そこから派生してディレクターや編集をやるスタッフまでいますから......いわゆるプロダクションとして、最初から最後まで完全なパッケージを作ることができるような構成を、まさにいま構築しているところです。

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──そのなかで、TD(テクニカルディレクター)とはどういった仕事をするのでしょうか?

TDは、中継やスタジオ収録を行なう際の技術チーフのことを言います。まずは中継の要件...例えば音楽のライブ中継の場合、カメラを何台入れるか、どの位置にどのスペックのカメラを入れて、どういったレンズで何を撮るか、といったことをヒアリングし、その要件に沿って機材や中継車を準備し、各持ち場のスタッフも揃える。一桁の人数で回すような規模の現場もあれば、東京ドームのように4、50台のカメラが必要な現場は、技術スタッフだけで7、80人になることもあります。各カメラの仕様やケーブルの配線、収録機材など、細かく資料に落とし込み、関係各所と共有していくのも重要な仕事のひとつです。スタッフひとりひとりにその持ち場での役割やスケジュールを指示し、収録当日は現場のトップとして技術チームを動かしていく。TDとは、そういった仕事になります。

──それを一人でされているのですか?

現在はメインのTDとサブのTDの2人体制でやっています。もっと言うと、TDという名前がついていなくても、音には音のチーフ、VE(ビデオエンジニア)にはVEのチーフがいます。ほかにも......カメラアシスタントがカメラを組んだりケーブルを引いたりしますが、「ここのエリアはキミがチーフとしてケーブルを引いてください」といったチーム分けを事前に考えて、その場で指示して組み立てていくような感じですね。

僕は現在、TDたちを統率するTM(テクニカルマネージャー)という役割にいて、クライアントからのオーダーに対して予算の範囲内でどのように最高の品質を届けていくか、予算やスタッフィング、機材、スケジュールの観点で統括していく立場にあります。スペックがTDに降りていく前に精査したり、中継車のような大きな機材を確保したりするのも仕事です。

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最前線から現地の熱量を届ける「最高のプロフェッショナル集団」

──竹下さんは海外案件の経験が多いとのことですが、これまでどのような海外の現場に携わってきたのでしょうか?

サッカーから始まって、グランドスラムやNBAといったスポーツ中継に多く携わりました。それから、グラミー賞やアカデミー賞、トニー賞といったアワード中継や、日本のアーティストが海外でライブを行なう際のライブ中継ですね。ほかにも......『Railway Story』(世界各国の鉄道の歴史と現状、数々の名列車や近代的な都市交通、そして鉄道を囲む広大な自然と観光名所を美しい映像でお届けする番組)のロケにも行きましたね。ヨーロッパはパリからトルコまで1ヶ月、オーストラリアは横断と縦断で1か月、ほぼずっと電車のなかで過ごしていました。寝台車の場合は、電車の中で数日間泊まり、途中駅で降りて周りの様子を撮って、再び電車に乗るの繰り返し。最近そういうロケはないですね。大変でしたが...面白かったですね(笑)。

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世界各国の鉄道の歴史や、名列車、鉄道を囲む広大な自然と観光名所等を紹介する「Railway Story」

──グランドスラムも長い期間、現地で作業をされますよね?

そうですね。準備も含めて、それぞれの大会につき3週間、現地へ行っていました。グランドスラムは試合映像はワールド・フィード(全世界の放送局に配信される映像)を使用するので、その映像を日本に送ったり、現地でスタジオを組んで、試合間はWOWOWの解説やゲストのいるそのスタジオから生中継をするので、そこのカメラやスイッチングの業務にあたったり、独自ロケや独自インタビューのVTRを挟み込んだり、やることは山ほどあるので大変ですが、会場を歩いていると有名な選手とすれ違ったり、グランドスラムのあの独特な雰囲気を現地で味わうことができるのは貴重なことだと思います。

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全仏オープンテニスのWOWOW特設スタジオ

──ジャンルごとで仕事の内容が変わると思うのですが、それぞれの中継で特徴的なことがありますか?

そうですね。例えばWOWOWのテニスはいま、全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン、全米オープンと、4大大会を扱っていますが、すべて同じ海外の技術会社で、同じ機材で回っているんです。規模は大きいですが、準備期間も4、5日ありますし、スタッフもある程度の人数がそろっていますし、大会期間も各大会2週間にわたるので、安定した感じがありますね。

それに対してアワードは年に一度の単発開催で、随行スタッフも少ない中、短期間で準備をしなければならないので、瞬発力が求められます。2日前から現地に入り、プレハブ小屋しかない状態のコンパウンド(中継車や仮設スペースのある中継拠点)に、机やラックを運び込み、機材をはめ込んで、回線をひき、日本のスタジオのホストとレッドカーペット・ナビゲーターが掛け合いできるようにしつつ、スタッフの指示系統となるインカムのシステム等も組んでいく。現地のスタッフを相手に調整しながら当日に間に合わせるという、瞬発力が必要になります。

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本番直前のアカデミー賞レッドカーペットの最終調整

加えて、アワードは年に一度のものなので、手順をしっかり資料に残しておかないと忘れることも多いんですね。現地に行って「あれ? これってどうなってたんだっけ?」とならないように、準備の時点で、前回の資料と計画を突き合わせるなど、しっかり備えていくことが大事だと思います。生中継が終わって、帰国してから必ず番組の録画もチェックします。自分たちの撮った映像が最終的なアウトプットとしてどうなっているかを視聴者目線で知り、次からどうするかを考えるといった意味もありますが、年に一度のイベントなので、記憶がフレッシュな間に確認し、「ここはこう改善できる」と反省点や改善方法を書き留めておくようにしています。制作体制が毎年同じとは限らない中で、技術面については、不安要素をなるべく取り除き安心運用できるようにしたいという思いがあります。

──海外のチームとのコミュニケーションはどのようにとっていますか?

つたない英語で(笑)......技術者同士ですから、相手がやろうとしていることや問題となり得ることもお互いに理解できますし、万国共通のような用語もたくさんあります。事前に必要機材や系統図、機材配置図やスケジュールなどをすべて提出しているので、それを現地でも付き合わせながらやりとりしています。そういった意味では海外案件は特に事前の準備は大事ですね。また年に1回のアワードではありますが、担当する現地スタッフの顔ぶれが毎年あまり変わらなかったり、グラミーでお世話になった現地のエンジニアが、アカデミーの時もいたりするのは、やりやすいですね。

ただ向こうは組合の規制も厳しいせいか、「昼休みを返上してこのチェックポイントに間に合わせる」「自分の責任範囲外だけど、あそこが大変そうだから手伝おう」といった姿勢よりも、「定時になったので帰ります」「これは自分の担当する仕事じゃないからやりません」といった要素がつよく、初めはそれに戸惑いました。今はそういったことを加味してスケジュールを立てたり、仕事とは全く関係のない話をして距離を縮めたりと、円滑にコミュニケーションがとれるように心がけています。

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技術クルーもレッドカーペット中継の本番はタキシード

──WOWOWの技術クルーは海外の現場でも「世界最高のクルー」とほめられ、アーティストからの指名が多いとうかがっています。それはなぜだと思いますか?

大規模な現場では外部のスタッフさんも多く関わってくださるので、一概にWOWOWだけの功績とは言えませんが、TDは任された現場についてはいいものを作りあげようと強い責任感をもって仕事を遂行し、他のメンバーも自らの持ち場を精一杯、全うしサポートする、そんな一丸となって向かっているところが評価されているのかもしれません。

僕が制作技術に入ったときに言われたのが「最高のプロフェッショナル集団でいよう」ということだったんですね。中継の世界でWOWOWというブランドを確立させていこう、そのためには各々のスキルを磨き、みんなで強くなって行こう、と。その気持ちを全員が持ち、チーム一丸で取り組み、地道に仕事を重ねてきた結果なんですかね。

スタッフが100人規模の大規模なライブ収録から、グラミーやアカデミーといった世界一流のイベントにおける少人数の現場に至るまで、スタッフが多様な経験を積んでいることも強みかもしれません。ジャンルや立場が変わっても、そういった現場に立った経験は必ず役立つと思っています。特にTDは、WOWOWの場合、カメラマンかつTD、スイッチャーかつTD、VEかつTDといった具合に、本番はオペレーションもしながらTDをすることも多いんですが、自らの持ち場のオペレーター業務を的確に遂行しつつ、全体の状況を見て、判断し、アクションを取れているのは、色々な現場を経験できているからだと、と思います。音楽ライブや舞台だけでなく、スポーツもアワードも経験していることが、それぞれの現場で生かされ、それゆえに強くなっていると感じます。

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壮大なテレビショーとしての魅力を持つグラミー賞授賞式

──1月27日にはグラミー賞授賞式の中継がありますが、毎年現地で担当している竹下さんが感じるグラミー賞の魅力とは何でしょう?

中継を担当していると言うと、現地の会場で授賞式を見ていると思われがちなんですが、グラミー賞をはじめとするアワードは授賞式そのものではなく、その前のレッドカーペットや、WOWOW独自のスタジオの仕事をしているので、視聴者と同じでモニター越しの映像でしかショーを見たことがないんです。いつか中で見て、自分の仕事にも生かせるようになれたら、と思っています!

でもショーで披露される数々のライブのクオリティであったり、豪華な司会者やパフォーマーなど、アメリカの最高峰のエンターテインメントのスケール感を感じられるショーだと思います。仕事柄、会場で使われる最新のクレーンや特機、最新技術を使ったカメラワークなども興味深く見てしまいます。僕たちは、ファンがたくさんいるライブを撮るので、ファンの邪魔になるような無茶はできないですが、グラミー賞は壮大なテレビショーとして作られているので、テレビでの見え方が優先され、カメラ位置やステージの使い方や演出を見て、斬新だなー、大胆な使い方をしているなーと、面白いです。

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第61回グラミー賞授賞式より Getty Images

──これまでのグラミー賞で、とくに印象に残っている回はありますか?

2016年に行なわれた第58回の授賞式で、ハリウッド・ヴァンパイアーズ(ジョニー・デップ、アリス・クーパー、エアロスミスのジョー・ペリーによるスーパーバンド)がTV初パフォーマンスを披露したときですかね。

その後、WOWOWの現地スタジオにジョニー・デップとジョー・ペリーが飛び入りで出演して、B'zの松本孝弘さんが合流して盛り上がったことが印象に残っています。急なことだったので、現場はバタバタでした。ゲストが急に増えたことで、カメラの割り振りを急きょ切り替えたり、マイクを付けるスタッフが映り込んだり(笑)ああいったハプニングは現地からの生中継ならでは、で面白いですね。「さっきまで会場にいました」「今から行ってきます」といった臨場感のあるレポートもできるのが特長ですね。

──今年はスタジオが東京に移るということですが、どんな中継になるでしょうか?

そうですね。今まではスタジオが現地の授賞式の近くにありましたが、今年は東京になりますので、レッドカーペットでのアーティストインタビューや、現地でショーを見ている山下智久さんの感想などを入れていくことにより、現地の熱気が伝わるようにしていきたいですね。現地の中継と東京のスタジオというグラミー賞においては初めてのスタイルなので、準備と言った観点においては、現地の映像をしっかり届けられるシステムを2、3日で組む短期決戦になると思います。

──今年も山下智久さんがロサンゼルス現地に行かれるんですよね。昨年一緒にお仕事された印象はいかがでしたか?

僕たちのようなスタッフにまで挨拶してくださる、とても真面目で礼儀正しい方でした。周りの状況を把握して、絶妙な間で話すので、昨年はコンビを組んでいた小牧ユカさんもやりやすそうに見えました。今年はレッドカーペットでどんなセレブといっしょになるか、ファンの方も楽しみにしているでしょうね。

──グラミー賞に関わるキャストやスタッフは大変仲が良いとうかがっていますが?

そうかもしれませんね。今まで、キャストの皆様とスタッフがロサンゼルスの限られた場所に集結していたこともあり、結束力があるチームになっていると思います。長年グラミー賞の案内役をされているジョン・カビラさんがいい雰囲気を作ってくださっていますね。打ち上げでは毎年、かなりの人数で和気あいあいと飲んでいます。キャストの方たちも二次会、三次会に付き合ってくださったりと、仕事以外のコミュニケーションも密にとれて、楽しいチームだと思っています。

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グラミー賞授賞式の案内役をつとめるジョン・カビラさん、ホラン千秋さん

つねに最前線に立って、現場の熱量を伝えたい

──制作技術の仕事をしていて面白いと感じるところはどこでしょう?

グラミー賞、アカデミー賞といった世界一のエンタテインメントやグランドスラムのような世界最高峰の大会を視聴者の皆様にお届けする仕事をしたり、音楽ライブにしても、日本のトップアーティストとお仕事させていただいているので、そういった"一流"の場にいられること、そしてその熱量を現場で感じとり、視聴者のみなさんに届ける最前線にいられることがありがたいですし、やりがいを感じます。

加えて、何年も続けて携わっていると、名の知れなかったテニスプレイヤーが突然強くなっていたり、まだ人が全然いない時間にレッドカーペットをひとりで歩いていた俳優やアーティストが、次の年にノミネートをされてスタッフを引き連れているVIPになっていたり、といった変化を目の当たりにできるのも面白さのひとつですね。

──竹下さんが仕事をするうえでの偏愛や大切にしていることは何でしょう?

僕自身は超現場至上主義のつもりでやっているのでつねに最前線に立って、現場の熱量を伝えることを大事にしていますし、とてもやりがいのある仕事ですから、今後もその場に居続けたいと思います。やっぱり現場にいるからこそわかること、感じられることがありますから。それが100%伝わるかはわかりませんが、100%伝えるための仕事はしたいと思っています。ずいぶん歳をとってしまいましたが(笑)、つねに現場に立っていたいですね。

大事にしていることは、周りとの関係性でしょうか。外部の人を含めて何十人ものスタッフを束ねることもあるので、なるべく視野を広く持つように。また、ライブ中継に入るときなどは"ライブを撮らせていただく立場"なので、ライブを作るチームのみなさんとも良い関係を築きながら、良いものを作り上げていきたいというスタンスが大事だと思っています。

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世界最高峰の音楽の祭典を目撃せよ!
生中継!第62回グラミー賞授賞式
2019年1月27日(月)午前9:00 ※二カ国語版(同時通訳)[WOWOWプライム]
※同日よる10:00~は字幕版を放送!

取材・文/とみたまい 撮影/祭貴義道  制作/iD inc.

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